サマータイム導入に本気で反対する理由。

尋常ではない暑さが続くこの夏、とんでもないニュースが飛び込んできた。

暑さ対策でサマータイム導入を検討 東京五輪・パラリンピックの開催はもはや戦争の遂行と同じなのか

私自身はサマータイムを体験したことはないが、漠然と「夏に過ごしやすくなる工夫なのかな」程度に考えていた。が、このニュースを聞いて実際に体験した知人の話や、既に導入して年数の経っている国々で廃止の方向に向かっていること等を知り、このタイミングで導入を提唱することの愚かしさに戦慄が走った。


そもそも、サマータイムとは何か?

広辞苑、明鏡国語辞典による語釈

とりあえず手元にあった辞書2冊を参照してみる。まず広辞苑第5版によると、(サマータイムと引くと『夏時間』参照とされたので『夏時間』の項目を引用する)

1.夏季の一定時間、仕事の能率を高めるため、通常の時刻を繰り上げる制度。夏時刻。サマータイム。

2.学校などで、夏季の始業時刻を早くすること。

とあり、明鏡国語辞典には

夏の一定時間、標準時間を一時間進めて、日照時間を有効に使おうとする制度。夏時間。

とある。

これだけ見ると「ふーん、夏の間だけ早起きして明るい時間が長くなって電気を付ける時間が短くなって、なかなか省エネ生活ができるのか」と思わないだろうか。私はそうだった。

しかし注目してほしい。特に明鏡国語辞典の一節「日照時間を有効に使おうとする」という文言である。要は「活動時間できるだけ日光に照らされるようなシステムですよ」ということに他ならない。ここまで熱中症に対する危険を気象庁が本気で呼びかけていて、それでも患者が出ている現状でそのような状況になったらどうなるか。サルでも分かるだろうと言いたい。

日本睡眠学会による「サマータイム-健康に与える影響-」

実際のサマータイムについて私たちが参考にする場合、日本睡眠学会から出ているハンドブックが一番分かりやすいと思う。


サマータイム-健康に与える影響-

サマータイムの概要、歴史から、それが健康に及ぼす影響まで詳細が書かれているので、ぜひご一読いただきたい。

実際にサマータイムを導入している諸国では

では、今度は実際に欧米諸国で導入されているサマータイムとはどういうものか見てみたい。多くの人が錯覚しがちと思われる「フレックスタイム」とは全く別物であることをしっかり認識していただいた上で考えてほしい。上に挙げた記事の著者である木村正人氏は英国で11年間生活されていて、毎年サマータイムを体験されている。英国のサマータイムは、

3月の最終日曜日午前1時に時計の針を1時間進めてサマータイムが始まり、10月の最終日曜日午前2時に時計の針を1時間戻す。

というものだそうだ。英国では既にサマータイムを導入して100年以上の歴史があり、うまく運用されているとのこと。

ただし、これは木村氏がご指摘のように「緯度が樺太と変わらない英国」だから歓迎される状況であり、それを緯度が低く国土が南北に長い日本で同様に導入することにはメリットはほぼないと考えられる。理由は後述する。

このサマータイムを廃止しようと提案したのがフィンランドである。

前述の木村氏の記事から再度引用になるが、

サマータイムがその国にあっているかどうかは緯度によるのかもしれない。緯度が英国よりも高いフィンランドでは「夏は日が暮れず、冬は日が昇らない地域もある。サマータイムは意味がない」という声が多い。

ということである。また、八田浩輔氏によると

欧州ニュースアラカルト:サマータイム EUは廃止の是非を検討 - 毎日新聞

一方、夏時間を導入している欧州連合(EU)は、廃止の是非についてこの夏に本格的な検討を始めた。健康への悪影響など「利益よりも不利益が大きい」として廃止を望む声があるためだ。

ということである。

サマータイムのメリット

前述の日本睡眠学会の「サマータイム-健康に与える影響-」より引用すると、サマータイム導入で期待されることとして省エネルギー、経済活性化が期待できるという。2007年12月に環境省と経済産業省が連盟で公開した「サマータイムについて」と題した資料には医科の3つが主なメリットとして挙げられている。

・直接効果(省エネ/温室効果ガス削減効果)

・間接効果(犯罪・交通事故の減少)

・経済波及効果(「自然」「健康」「文化活動」をキーワードとする活動が活発化)


さらには、サマータイム導入によって年間およそ119万トン(CO2換算)の削減効果が期待されるという。

サマータイムのデメリット

次に、デメリットについて見ていきたい。

健康上の不利益

「サマータイム-健康に与える影響-」で取り上げられている健康上の不利益として、大きく3つの健康障害が取り上げられている。

1.生体リズムへの影響

2.眠りの質への影響

3.眠りの量への影響

である。詳しくは資料を参照していただきたい。

疾患、健康弱者への影響

次に挙げる問題はかなり深刻である。

  • 心筋梗塞の増加
  • 時刻変更時期に生じるリズムの急激な変化がもたらす悪影響が小児、高齢者、病者といった健康弱者に生じる可能性
  • 特に夜型の学生では日中の眠気が強いこと
  • サマータイムのような人工的で急激な時刻変更は、生活リズムが昼夜変化や季節変動など自然のリズムに近づいている高齢者にとって、負担が大きい
  • 病者、とくに、精神疾患の患者さんへの影響が大きい。睡眠時間の減少はうつ病のきっかけになる

これだけ見ても、どんなに経済的効果が期待できるとしても気軽に導入していいものか。

経済効果も否定されている

フランスの1996年のEU上院代議員団レポートで、経済効果は否定されている。以下、再度「サマータイム-健康に与える影響-」からの引用である。

 次に経済効果ですが、フランスの1996年のEU上院代議員団レポートでは、経済効果も否定されています。

日本では環境省が公益財団法人 日本生産性本部、旧・財団法人
余暇開発センター、「地球環境と夏時間を考える国民会議」等の試算を紹介してサマータイムの経済効果をうたっています。しかし、詳細に読み込むとその試算根拠はあいまいです。実際、日本政府も2011年4月26日に、国内にあるコンピューターや産業機械などの時刻をすべて変更するには膨大なコストがかかる上、実施に伴う社会的な混乱も懸念して、導入を見送る方針を決定しています。

さらに引用になるが、このようなコラムもある。

サマータイムの省エネ効果は低い?


大阪大学が大阪市をモデルにサマータイムを導入した場合の予想電力消費量を2007年に試算しています。その試算によると、家庭の照明用電気消費量は 0.02%減少するものの、冷房用電気消費量は 0.15%増加し、全体として 0.13%増加するとなっています。また、東日本大震災後、財団法人 電力中央研究所の今中氏は、東京電力管内における「時刻シフト」「休日シフト」「連休シフト」それぞれの電力の夏季ピーク負荷削減効果を検討しています。これによると、始業時間の前倒しにより電力需要を 1 ~ 2 時間早めるサマータイムのような「時刻シフト」による削減効果はピーク負荷の 1%程度※にすぎず、本検討レベルの分析では誤差といってよい規模であると結論しています(2011 年 4 月 12 日)。

※平日最大のカーブについて、5 割の電力需要を 1 時間前倒しした場合と 2 時間前倒しした場合それぞれについての試算です

引用を始めたらきりがなくなったので、とりあえずサマータイム導入という話を聞いたら、この「サマータイム-健康に与える影響-」を読んでほしい。

エンジニアに対する過大な負担

コンピューター社会である現在、裏方を支えてくれているエンジニアの皆さんの存在を忘れてはならない。エンジニアの視点から、このような記事もある。

サマータイム導入なんてとんてもない!エンジニアの立場で考える

現場の悲鳴が伝わってくる。

なぜ暑さ対策のためにサマータイム導入という話になるのか

年々上昇する真夏の気温で、8月の東京五輪を安全に開催したいという気持ちは分かる。だが問題の解決が根本からずれているように思う。

前回の東京五輪の開会式がなぜ10月10日になったのか。今一度、考えてみてほしい。

夏季五輪として異例に遅い日程になっていることは確かだが、真夏の酷暑、9月の秋雨を避けて特異日(特定の気象状態が高確率で現れる日、1964年では10月14日)に近い土曜日が選ばれたのだという。参加者全てに配慮した決断だったと思う。

個人的な理想としては、今からでも開会式を10月にずらし、少しでも選手やスタッフ、観客の負担を減らすこと。

それができないのならば、何もシステムを根幹から変更しなければならないサマータイムを導入するのではなく、単に開始時間をずらすなりナイターに変更すればいいだけのことである。死の危険がある時間帯は涼しい場所でシエスタ。これに限る。

余談だが「体育の日」という呼称は2020年から「スポーツの日」に改称されるのだとか。何でもかんでもカタカナにすればいいってもんじゃなかろうに。「ハッピーマンデー」とやらで祝日の意味合いも無視して日にちを動かすことと同次元の愚かしさを感じる。

参考

フランスで10年以上生活している友人からの意見

実際にフランスで生活している同級生からは、以下のような意見をもらった。

日本ほどサマータイムの要らない国はないと思う。夏と冬の日照時間の差、地域による日の出日の入りの時間差が少ない地理的にとても恵まれた環境はなかなかないですよ。それに何より日本人の気質には絶対合わない。導入してもすぐに廃止になるのは明らか。それに費やす国家予算や設備投資がまったくの無駄になります。

鹿児島でサマータイムが導入されたらどうなるか

こちらは鹿児島大学、国立天文台および東京大学の名誉教授であった故・森本雅樹氏と元兵庫県立西はりま天文台長・天文台公園長を務められた黒田武彦氏のレポートである。日本にサマータイムを導入することがいかに問題のあることか、分かりやすく解説されている。


サマータイムを考えました

とにかく、日本でサマータイムを導入すること、それもどの国も体験したことのない2時間時計を早めるというアイデアは狂気の沙汰以外の何物でもない。こんな検討は即刻中止していただきたい。

さらに余談になるが、夏の高校野球は来年から京セラドーム大阪で開催するか、全試合ナイターでやるべきだと割と本気で思っている。

0 件のコメント :

コメントを投稿